オンコールの当番が回ってきた日、スマホを裏返しに置けなくなっていませんか。着信音をオンにしたまま、風呂も食事もどこか落ち着かない。そして朝になって、結局は一度も鳴らなかった。
それなのに、なぜか疲れが残っている。この感覚には理由があります。オンコールのしんどさは「呼ばれた回数」ではなく「呼ばれるかもしれない時間の長さ」で決まるからです。
現役の診療放射線技師(10年目)のアルです。この記事では、①呼ばれなかった夜がなぜ回復にならないのか、②その負担が制度でどう扱われているのか、③自分の負担を数字とお金で確かめる方法、の3つを話します。
呼ばれなかった夜も、休んだことにはならない
以前勤めていた病院で、私のオンコールはシフト制で月に12回組まれていました。実際に呼び出しがかかるのは、月に1回か2回です。
数字だけを並べると、10回は何も起きていません。当番表を見た人には「ほとんど呼ばれてないじゃないか」と映ります。
ただ、その10回が軽かったかというと、まったく違いました。呼び出しは30分以内に病院へ着くことが前提だったので、遠出はできません。お酒も飲めない。風呂に入るときは、着信音が聞こえるように脱衣所にスマホを置いていました。湯につかっている間も、鳴っていないかを気にしている。
つまりオンコールで削られていたのは、睡眠ではありませんでした。削られていたのは「気を抜いていい時間」です。
厄介なのは、この負担が誰にも見えないことです。何も起きなかった夜には、記録が何ひとつ残らない。当直なら病院に泊まるので拘束は誰の目にも明らかですが、オンコールは自宅にいます。布団で寝て、家族と同じ食卓につく。外からは「家で休んでいた」ようにしか見えません。
だから当直明けなら「昨日は大変だったね」と言ってもらえるのに、オンコール明けに同じ顔をしていても、呼ばれていなければ何も言われない。夜勤・当直そのものの負担を減らす方法は夜勤・当直がつらい放射線技師へ|負担を減らす3つの道にまとめました。ここでは「泊まらないのにしんどい」ほうの話を続けます。
なお、ここまでは月1〜2回しか鳴らない私の例です。救急の受け入れが多い病院なら、当番のたびに呼ばれるという人もいます。その場合は話が変わってきます。呼ばれた分がきちんと賃金になっているか、という別の問題が出てくるからです。これは後ほど扱います。
いちばんこたえるのは、呼ばれた後に休みが来ないこと
当直明けなら「昨日は大変だったね」と言ってもらえます。オンコール明けにそれが無いのは、拘束が誰にも見えていないからなんです。
私がオンコールで最もこたえたのは、深夜2時ごろの呼び出しでした。
検査を終えて家に帰り、少し眠って、そのまま数時間後にいつも通り出勤する。呼ばれた分の代わりの休みは、ありませんでした。
当直であれば、明けは帰れる職場が多い。今の職場もそうです。ところがオンコールは「たまたま呼ばれただけ」という扱いになりやすく、翌日の勤務がそのまま残ります。
体力の問題だけではありません。前日に人を撮っている自分と、数時間しか眠れていない自分が、同じ精度で仕事をできるとは思えない。その不安を抱えたまま朝の一枚目を撮るのが、いちばん重かったのを覚えています。この「体ではなく頭のほうが削られる」感覚は、担当する検査によっても変わります。放射線技師がきついのは2種類|検査ごとの違いに分けて書きました。
そしてこの負担は、年数が経つほど効いてきます。20代なら寝てしまえば戻ったものが、30代・40代では翌日いっぱい残る。子どもが小さければ家を空けたあとが気になり、親のことが重なれば、そもそも家を空けにくくなります。同じ月12回でも、20代と40代ではまったく意味が違う。若いころは平気だったのに最近きつい、と感じているなら、それは慣れの問題ではありません。
この負担が数字に出ないのには、理由があります
オンコールがしんどいのに周りに伝わらないのは、あなたの説明が下手だからではありません。制度の側が、その時間を数えていないからです。
ここから制度の話をします。以下は2026年9月時点で公表されている資料をもとにした一般的な説明で、個別のケースがどうなるかは事情によって変わります。自分の職場について確かめたいときは、労働基準監督署の相談窓口や弁護士に相談してください。この記事が判断を代わりに行うことはできません。
そのうえで実情を書きます。多くの職場では、待機している時間そのものは労働時間として計算されず、呼び出されて実際に働いた時間だけが勤務として記録されています。待機時間そのものへの支払いを一律に義務づける規定も置かれていません。
ここから何が起きるか。呼ばれなかった夜は、勤務時間にも残業時間にも、給与明細にも一切現れません。
月に12回スマホを気にしながら過ごしても、記録の上ではゼロです。ゼロのものは、上司にも家族にも、そして自分自身にも見えません。「たいしたことないのに疲れている自分」を責めてしまうのは、そのためです。
ただし、待機時間が労働時間だと判断された例もあります。次にそこを見ます。
「労働時間になる」ケースはあります|厚労省の3つの基準
オンコールの待機時間が労働時間にあたるかどうかは、あらかじめ一律に決まっているわけではありません。厚生労働省が示している考え方では、次の3点をふまえて個別に判断されます。
①呼び出しの頻度がどの程度か。②呼び出された場合に、どの程度すみやかに病院へ到着することが義務づけられているか。③呼び出しに備えて、待機中の行動がどの程度制限されているか。
この3つを通して見られているのは、ひとことで言えば「労働から離れることが保障されていたか」です。
実際の裁判でも、判断は割れています。なお、私が調べた範囲では、診療放射線技師のオンコールについて公表されている裁判例は見つけられませんでした。以下は同じ医療現場の、別の職種のケースです。
| ケース | 裁判所・年 | 待機時間の扱い |
|---|---|---|
| 訪問看護師(アルデバラン事件) | 横浜地裁・2021年 | 労働時間である |
| 後期研修医(誠馨会事件) | 千葉地裁・2023年 | 労働時間ではない |
分けたのは回数ではなく、縛られ方でした
この2件を並べると、意外なことが見えてきます。
労働時間だと認められた訪問看護師のケースで、実際に呼び出しがあったのは担当8回に1回ほど。認められなかった研修医のケースでは、39回の当番のうち7回で出勤しており、およそ5.5回に1回でした。
つまり呼ばれる頻度だけを見れば、労働時間と認められなかった側のほうが高い。それでも結論は逆でした。
判断を分けたのは、待機中にどれだけ縛られていたかです。研修医のケースでは、待機場所に制約があったとは認められず、食事も入浴も睡眠もとれたと判断されました。対して訪問看護師のケースでは、電話があれば遅滞なく応対し、内容によっては直ちに駆けつけなければならない状態だったと認定されています。
現場の実感と、きれいに一致します。しんどさを決めているのは呼ばれた回数ではなく、呼ばれるかもしれない状態でどれだけ我慢したかのほうなのです。
回数が少ないから軽い、という話ではないんです。「鳴るかもしれない」で行動を変えていた時点で、もう休めていない。
自分のオンコールを、3つの基準で書き出してみる
負担が見えないなら、見えるようにするところから始めます。さきほどの3点を、そのまま自分の条件に置き換えてください。
月に何回組まれていて、そのうち実際に何回鳴ったか。当番表と自分の記憶を突き合わせます。
呼ばれてから何分以内に病院へ着くことになっているか。決まりが無いなら「決まりなし」と書いてください。
当番の日に諦めていることを、思いつくまま全部。ここがいちばん長くなるはずです。
私の場合は、月12回・30分以内・遠出と飲酒が不可、でした。紙に書き出してみると、③の欄がいちばん長くなります。ここが自分の負担の正体だった、と気づいたのはこの時です。
並べる価値は、もう一つあります。交渉でも転職の面接でも、使えるのは「しんどい」ではなく、この3行だからです。「月12回で30分以内、遠出も飲酒も不可」と言えば、条件の重さは一度で伝わります。
お金の面で、いま確かめられること
3行がそろったら、次はお金です。ここは制度の話と違って、自分の給与明細だけで確かめられます。
まず待機手当を時給に直してみてください。たとえば1回2,000円の手当で、夕方5時から翌朝8時までの15時間が当番だとすると、時給に直せばおよそ133円です。金額の大小より、この数字を一度見ておくことに意味があります。自分が何を、いくらで引き受けているのかがはっきりするからです。
もう一つが、呼ばれて働いた分の割増賃金です。待機手当とは別物なので、混ざっていないかを見てください。
労働基準法では、法定の労働時間を超えた分に25%以上、夜10時から翌朝5時までの深夜帯に25%以上の割増を付けることが定められています(2026年9月時点)。深夜2時の呼び出しは、多くの場合この2つが重なる時間帯です。
給与明細で見る3つ
- 呼ばれて働いた時間が、勤務として記録されているか
- その分に時間外の割増が付いているか
- 深夜帯(22時〜5時)にかかった分の割増が、別に付いているか
ここが抜けたまま何年も過ぎている職場もあります。とくに呼ばれる回数が多い人ほど、差は大きくなる。月に何度も鳴る当番を持っているなら、まずここを確かめてください。
なお、呼び出しを受けてから病院に着くまでの移動時間をどう扱うかは、職場によって考え方が分かれます。気になる場合は、就業規則でどう定められているかを確認してください。
院内で減らせること、減らせないこと
職場を変える前に、今の場所でできることから見ていきます。転職には時間もお金もかかるので、コストの低い順に試すためです。
まず、正直なところを書きます。オンコールの回数そのものは、技師の人数が増えないかぎり、ほとんど減りません。月12回が月6回になるということは、誰かの当番が増えるということです。少人数の職場ほど、この計算からは逃げられない。ここを動かすには採用が必要で、現場の一存では決まりません。
それに、呼ぶかどうかを決めるのは医師です。技師の側から「この検査は朝まで待ってください」とは言えません。だから狙うべきなのは、回数そのものではなく「呼ばれた後の扱い」のほうです。人を増やさなくても変えられるからです。
現実的に動かせるのは、次の3つです。
- 呼ばれた実績を記録して見せる:何月何日の何時に呼ばれ、何時に帰ったか。3か月分ならべるだけで、当番表からは見えない実態が数字になります。交渉はここからしか始まりません
- 呼ばれた翌日の勤務を軽くしてもらう:「深夜に呼ばれた翌日だけ、始業を1時間ずらせませんか」。全部を通すのは難しくても、この程度なら通ることがあります。当直明けが休みなら、同じ理屈が使えるはずだと伝えるのが早い
- 当番の偏りをならす:連続で2回入れない、金曜と日曜を同じ人に寄せない。こうした条件を1つ加えるだけでも、偏りは減らせる余地があります
環境ごと変えるなら、先に「いくら下がるか」を計算する
院内で動かせないと分かったとき、残るのは職場を変える選択肢です。私自身も、オンコールの負担が理由のひとつになって職場を移りました。今の職場に当直はありますが、オンコールはありません。当直は泊まれば終わります。オンコールは、終わりの時刻が決まっていない。この差は、両方をやってみて初めて分かりました。
オンコールが無い、または少ない求人が多く見られるのは、クリニック、健診センター、巡回健診、医療機器メーカーなどです(2026年9月時点。同じ業態でも当番がある職場はあるので、実際の有無は求人ごとに確認してください)。免許が要る仕事・要らない仕事の両方を並べた一覧は、放射線技師からの転職先15選|現役10年目が「免許が要る仕事・要らない仕事」で整理したにまとめました。
ただし、先にやってほしい計算があります。収入がいくら下がるかです。
当直手当や待機手当、呼び出しの時間外手当は、多くの職場で年収に組み込まれています。当番から降りるということは、その分がまるごと消えるということです。額面だけを見て移ると、「たしかに夜は静かになったが、生活は苦しくなった」という結果になりかねません。
いまの手当が年間いくらになっているかは、給与明細を12か月ぶん並べれば出ます。放射線技師の給料がどう作られているかは、放射線技師の年収は低い?現役10年目が給料のリアルと上げ方を話すで詳しく書きました。
そのうえで、求人票は数字で確かめてください。「オンコールあり」の4文字だけでは、月2回なのか月15回なのかが分かりません。当番の回数、到着までの時間、呼ばれた翌日の扱い、手当の額。この4つは面接で聞いていい項目です。
自分から聞きにくい場合は、人材サービスの担当者に代わりに確認してもらう方法もあります。サービスごとの違いは放射線技師の転職サイトはどれがいい?現役技師が2社に絞って比較にまとめています。
よくある質問
- 待機手当が出ていないのですが、違法ですか?
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一般論として、待機時間そのものへの支払いを一律に義務づける規定は置かれていないため、手当が無いこと自体がただちに違法とは言い切れません。ただし待機中の制限が強い場合、待機時間が労働時間と判断される余地があります。自分のケースについては、労働基準監督署の相談窓口や弁護士に相談してください。
- 呼ばれて働いた分の手当は、正しく付いていますか?
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明細で3つを見てください。呼ばれて働いた時間が勤務として記録されているか、時間外の割増が付いているか、深夜帯(22時〜5時)の割増が別に付いているか。待機手当が出ているからといって、この割増が不要になるわけではありません。
- 深夜に呼ばれた翌日、休ませてもらえますか?
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職場によります。当直明けは休みでも、オンコール明けは通常勤務という職場は珍しくありません。呼び出しの記録を残しておくと、始業時刻をずらす相談がしやすくなります。
- オンコールの当番は断れますか?
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就業規則や雇用契約に定めがある場合、個人の一存で断るのは難しいのが現実です。現実的なのは、体調や家庭の事情を理由に回数の調整を相談することです。断るより「減らす」ほうが話は通りやすくなります。
まとめ|見えない拘束は、書き出せば見える
オンコールのしんどさは、鳴った回数では測れません。鳴らないかもしれない時間を、どんな気持ちで過ごしたかのほうが重い。裁判所の判断でさえ、回数より縛られ方を見ていました。
その時間は記録に残りません。だからこそ、自分で書き出す価値があります。月に何回・何分以内・何ができなくなるか。この3行が、交渉のときも、求人票を見比べるときも、そのまま使えます。
そのうえで、給与明細を開いてください。待機手当を時給に直す。呼ばれた分の割増を確かめる。ここまでは今日中にできて、しかもお金に直結します。
院内で変えられるのは、たいてい呼ばれた後の扱いのほうです。回数そのものは人数で決まってしまう。そこまで確かめて動かないなら、環境ごと変える道が残ります。
どちらを選ぶにしても、順番は同じです。まず書き出す。次に明細を見る。院内で試す。それでも変わらなければ、外を見る。感覚のまま我慢を続けるより、ずっと消耗が少なくて済みます。









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