求人票の「35歳以下」という一行が、急に自分に向けられた文字に見えてくる。10年近くやってきたのに、いまさら未経験の枠には入れない。かといって、このまま同じ検査室で40代を迎える自分も想像できない。その行ったり来たりを、くり返していませんか。
先に結論を書きます。「35歳の壁」は、年齢の壁ではありません。「育ててもらう枠」から「経験を買われる枠」へ乗り換えられたかどうかの壁です。この2つは、閉まる時期がまったく違います。
現役の診療放射線技師(10年目)のアルです。私も30代で転職活動をして、担当者から「35歳を超えると採用率が一気に下がる」と言われた側の人間でした。この記事では、①国の統計に出ている30代の年収の実態 ②「35歳以下」の求人が法律上どういう意味なのか ③動く前に並べる順番と、残ると決めたときの決め方、の3つをお伝えします。
30代で「もう遅いのでは」と感じるのは、気のせいではありません
30代の半ばに入ったあたりから、給与明細の数字が動かなくなったと感じている人は多いと思います。その感覚には、根拠があります。
厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」で、診療放射線技師の平均年収を年齢の層ごとに並べると、きれいな右肩上がりにはなりません。上がる時期と、ほとんど止まる時期が、交互に来ます。
| 年齢の層 | 前の層からの上がり幅 |
|---|---|
| 20代前半 → 20代後半 | +83万円 |
| 20代後半 → 30代前半 | +66万円 |
| 30代前半 → 30代後半 | +7万円 |
| 30代後半 → 40代前半 | +81万円 |
| 40代前半 → 40代後半 | +3万円 |
厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の診療放射線技師(男女計・企業規模10人以上)の数字から、月給×12+年間賞与で年収を出し、層ごとの差を計算したものです。
20代のうちは、1年ごとに増えた実感があったはずです。ところが30代前半から30代後半にかけては、平均で7万円しか増えていません。月にすると6千円弱。10年目前後で「頑張っても変わらない」と感じるのは、あなたの働きが落ちたからではありません。
ただ、ここで話を終わらせると読み間違えます。その次の40代前半では、81万円も跳ねています。止まったあとに、また大きく動く。年収は坂道ではなく階段で、30代後半はその踊り場にあたります。
踊り場は40代後半にもあります(+3万円)。「30代で止まったから、この先ずっと止まる」ではないということです。20代のうちのように、段差が続けて来る時期もあります。上がり方が一定ではない、というだけの話です。
この数字の読み方に注意してください
この表は、年齢の層ごとの平均を横に並べたものです。同じ人を10年追いかけた数字ではありません。あなたが5年後にこのとおりになるという意味ではなく、全国の技師の平均でも同じ形をしている、という読み方をしてください。
問題は、踊り場にいるあいだに何をするかです。40代前半の平均は上がっていますが、その幅がそのまま自分に当てはまるとは限りません。
「35歳を超えると採用率が一気に下がる」と、担当者に言われました
私が求人を探していたとき、転職サービスの担当者からはっきり言われた言葉があります。「35歳を超えると、採用率が一気に下がる」
これは統計ではありません。求人を毎日扱っている人が、経験からそう言ったというだけの話です。それでも、線を引いている人が実際にいるという事実は残ります。
私自身の体感も、同じ方向を向いています。病院の求人でも30代は採用されにくくなりますし、医療機器メーカーへの転職は35歳くらいまでが目安、という話も耳にします。ただしこれは私の体感であって、確かめた数字ではありません。
ところが、求人サイトが書いている記事を読むと、逆のことが書いてあります。30代という年齢が理由でお見送りになることは、ほとんどない。焦る必要はない、と。
どちらかが嘘をついているのでしょうか。そうではありません。2つは、違う扉の話をしています。
「35歳の壁」は、年齢の壁ではありません
意外に思われるかもしれませんが、募集や採用で年齢を理由に落とすことは、法律で原則として禁止されています。労働施策総合推進法の第9条。以前は雇用対策法と呼ばれていた法律です。
対象はハローワークだけではありません。あなたが見ている病院の求人票も、メーカーの中途採用ページも、紹介会社が出す求人も、全部この対象です。
しかも、求人票を形だけ「年齢不問」にすればいいという話でもありません。年齢を理由に応募を断る。書類選考や面接で年齢を理由に落とす。厚生労働省の資料では、これらはいずれも違反にあたるとされています。
ただし、罰則はありません
違反しても罰金などの罰則はなく、行政指導にとどまります。「法律で決まっているから絶対に起きない」とは言えません。年齢で落とされている実態は、たしかにあります。
では「35歳以下」と書ける求人は、何なのか
禁止には例外があり、その中身がきちんと決まっています。「35歳以下」のような上限つきの募集で使われるのは、「長期勤続によるキャリア形成のための若年者募集」という枠です。
この枠を使うための条件は、3つです。
- 応募者の職業経験を問わないこと(=未経験でも応募できる募集にすること)
- 新卒者と同等に扱うこと(訓練や育成の体制、配置や処遇を新卒と同じにすること)
- 期間の定めのない契約であること
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。「35歳以下」と書ける求人は、そもそも経験ゼロを前提に、新卒と同じように育てる枠です。10年やってきた技師の経験を評価するための枠ではありません。
つまり35歳で閉まるのは「育ててもらう扉」のほうだけです。もう一方の「経験を買われる扉」には、この締め切りは書かれていません。
求人サイトが「年齢は関係ない」と言い、担当者が「35歳で下がる」と言う。どちらも本当のことを言っています。前者は経験を買われる側を、後者は育ててもらう側を見ているだけです。
年齢の上限が書かれた求人を見たときの、判断のしかた
上限年齢が書かれた求人に出会ったら、確認することが2つあります。
ひとつは、それが未経験を育てる枠かどうか。育てる枠なら、あなたの10年はそもそも評価の対象に入りません。応募できるかどうかより、応募する意味があるかどうかの話になります。
もうひとつは、その理由が本来あなたに示されるべきものだということ。65歳以下の上限年齢を設ける場合、企業には理由を求職者に示す義務があります(高年齢者雇用安定法 第20条第1項)。示されていなければ、聞いて構いません。
「もう遅い」と思ったとき、私たちは年齢のほうを数えてしまいます。でも実際に数えられているのは、年齢ではなく経験のほうなんです。
あなたはいま、どちらの扉の前にいますか
これは、3つの質問で見当がつきます。順番に答えてみてください。
いまの自分を確かめる3つの質問
① 直近1年で、新しい装置か新しい検査に触れましたか
② 認定資格は、取得済みか、取得の途中にありますか
③ いまの職場で、次に自分が触れる装置や役割は決まっていますか
この3つは、思いつきで並べたものではありません。採用する側が知りたいのはここだろう、と私が考えている3点です。
①は「いまも伸びているか」。同じ検査を10年こなしてきた人と、去年から新しい装置に入った人とでは、入職後に任せられる範囲の見通しが変わります。年数よりも、直近の動きのほうが効いていると感じています。
②は「学ぶ習慣があるか」。取得済みかどうかより、途中でも構わないというのが大事なところです。取りかかっている事実そのものが、続けられる人だという証拠になります。
③は「この先も動くか」。次に触れるものが決まっている人は、辞めても次の職場で同じように動きます。決まっていない人は、環境が変わっても止まったままになりやすい。私はここを見られていると思っています。
3つとも「はい」なら、あなたは経験を買われる扉の前にいます。年齢の締め切りを気にする必要は、いまのところありません。
2つ「はい」なら、扉はまだ開いています。足りない1つを埋めれば、相手に伝わる形になります。
「はい」が1つ以下だったなら、問題は年齢ではなく、差し出せる材料のほうです。ただ、ここは行き止まりではありません。年齢は増やせませんが、材料のほうは増やせるからです。
私が30代の転職活動で、不利だと感じなかった理由
担当者から「35歳を超えると下がる」と言われた私ですが、実際に活動していて年齢で不利だと感じた場面は、一度もありませんでした。
理由ははっきりしています。認定資格を取り、いろいろなモダリティを触ってきたからです。
ただ、「この資格が決め手だった」と言えるものはありません。単体で効いた資格は、私の場合ひとつもなかった。効いたのは組み合わせのほうです。
一通りの検査を回せて、そのうえで認定がある。この状態は、相手にとって「この人は入ってすぐ回せる」という説明そのものになります。資格の名前ではなく、その一言が評価されていました。
そして、ここが大事なところです。私はこれを20代で完成させたわけではありません。30代に入ってからも触る装置は増やしていますし、資格も積んでいる途中です。だから「30代からでは遅い」という感覚を、私は持っていません。
「これが最後の挑戦だ」と言って出て行った同僚
30代で職場を離れていった同僚が、こう言っていました。これが最後の挑戦で、最後の転職だと。
この言葉が示しているのは、年齢で落とされるという話ではないと思っています。30代は、やり直せる回数が減る年代だということです。だから一回が重くなり、慎重になる。
落とされるのが怖いのではなく、選び直せないのが怖い。ここを取り違えると、対策の方向まで間違えます。回数が減るなら、必要なのは勇気ではなく順番です。
同じ30代でも、道によって締め切りは数年ずれます
転職先は、大きく2つの方向に分かれます。免許が要る仕事と、要らない仕事です。どんな仕事があるかは放射線技師からの転職先15選にまとめているので、ここでは時間の話だけをします。
免許を使う道は、経験がそのまま評価されます。病院、クリニック、健診、放射線治療、核医学。ここは経験を買われる扉なので、年齢の締め切りは緩い。40代で動いている人もいます。
免許を使わない道は、多くの場合いったん未経験として入ることになります。育ててもらう扉です。35歳前後で閉まり始めるのは、こちらのほうです。
同じ「30代の転職」でも、道によって締め切りが数年ずれる。「30代はもう遅い」の一言でまとめてしまうと、まだ開いている扉まで自分で閉めることになります。
医療機器メーカーを考えているなら、放射線技師から医療機器メーカーへ転職するにはで、実際に何が求められるのかを書いています。
免許を使わない道を考え始めた人へ
未経験の枠は、年齢で閉まります。動くかどうかを決める前に、いまの自分の経験でどんな求人が実在するのかだけでも見ておいてください。放射線技師の転職サイトはどれがいい?現役技師が2社に絞って比較で、放射線技師向けのサービスを比べています。
動く前に、戻れる順番で並べてください
転職する・しないの二択で考えると、判断が重くなりすぎて動けません。実際には、引き返しやすい順に4つの段があります。
やることは、条件を眺めるだけです。応募もしませんし、誰にも知られません。多くの求人サイトは、登録しなくても公開されている求人の条件を見られます。自分の経験でどんな募集が実在するのか、それだけを見ます。
次に触りたい装置や、やってみたい役割を上司に一度だけ伝えます。異動や担当替えで解決するなら、失うものがいちばん少なくて済みます。
自分の経験でいくらの求人があるのかを確かめます。ここで初めて、数字が具体の形になる。家族がいる人は、この段で「年収が下がる決断を説明できるか」まで見えてきます。どのサービスで見るかは放射線技師の転職サイトはどれがいい?で2社に絞って比べました。
STEP1からSTEP3までは、全部やり直せます。職場には何も伝わりませんし、途中でやめても失うものがありません。戻れなくなるのは、STEP4に入ってからです。
家族がいる人は、自分の仕事の話だけで決められません。そこはSTEP3まで進むと、はっきりします。金額が出てはじめて、家族と話せる形になるからです。
「まだ迷っている段階で、登録してもいいのか」
STEP3でやることなので、迷っている段階のほうがむしろ普通です。登録は転職の約束ではありません。相場を見た結果として「残る」という答えが出ることもあります。私自身、2回目の活動をしたあとで今の職場に残りました。
後悔しそうかどうかは、頭の中で考えるより、STEP3で金額を見てからのほうが正確に分かります。
迷うなら、今の自分と将来の自分を天秤にかけてみてください。少しでも後悔しそうなら、行動したほうがいいと思っています。
「残る」と決めるなら、期限を決めてください
外を見た結果、残るという答えが出ることもあります。それは負けではありません。比べたうえで選んだのなら、立派な結論です。
ただ、「なんとなく残る」と「期限を決めて残る」は、まったく別のものです。前者は1年後も同じ場所で、同じ言葉を検索することになります。
残ると決めたなら、2つだけ決めてください。
- いつ、もう一度判断するか(たとえば1年後の同じ時期に、STEP1からやり直す)
- それまでに、どの材料を1つ埋めるか(3つの質問で「いいえ」だったもの)
材料の埋め方は、答えが「いいえ」だった質問によって変わります。①が「いいえ」なら、いま職場にある装置のうち、自分がまだ入っていないものを1つ選んで手を挙げる。②なら、自分の職場で受けやすい認定を1つ選んで、申し込みの時期だけ調べておく(CT認定の費用や受験資格は放射線技師の認定資格の記事にまとめています)。③なら、来年やりたいことを1つだけ決めて、上司に伝わる形にしておく。
どれも、今の職場にいたままできることばかりです。転職しないと材料が増えないわけではありません。むしろ残ると決めた人のほうが、時間をかけて積める立場にいます。
30代後半の踊り場は、40代前半の段差の手前にあります。踊り場で何を仕込んだかで、段差の高さは変わります。給料が上がらない仕組みそのものについては、放射線技師の年収は低い?で掘り下げました。
まとめ|「動くかどうか」ではなく、「どちらの枠で勝負するか」
30代でやることは、年齢を数えることではありません。自分がどちらの扉の前に立っているのかを確かめて、そこで勝負すると決めることです。
育ててもらう扉は、たしかに35歳前後で閉まります。けれど経験を買われる扉のほうは、いつ閉まるとも書かれていません。そして、その扉を開ける材料は30代からでも積めます。私自身、いまもそうしています。
まずは求人票を10件だけ開くところから。それだけなら、今日のうちに終わります。
よくある質問
- 30代から未経験の企業に転職するのは無理ですか?
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無理ではありませんが、未経験を育てる枠は35歳前後で狭くなります。狙うなら早いほうが有利です。ただし、技師の経験そのものを買ってくれる職種もあります。どんな仕事があるかは放射線技師からの転職先15選で整理しました。
- 「35歳以下」と書かれた求人には応募できませんか?
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応募すること自体は妨げられません。ただしその求人は、法律上「職業経験を問わず、新卒と同じように育てる」枠として出されている可能性が高く、あなたの10年の経験は評価の対象に入りにくいです。応募できるかどうかより、応募する意味があるかどうかで判断してください。
- 30代から認定資格を取り始めても間に合いますか?
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間に合います。私自身、30代に入ってからも資格と経験を積み続けています。ただし1つの資格だけで評価が決まることは、私の経験ではありませんでした。触れる装置の幅と組み合わせて、はじめて説明になります。
- まだ迷っている段階で、転職サービスに登録してもいいですか?
-
構いません。相場を確認するのは、動くかどうかを決める前の作業だからです。登録が転職の約束になるわけではありません。私も2回目の活動のあと、今の職場に残っています。サービスの違いは転職サイトを2社に絞って比較した記事にまとめています。









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