求人サイトを開くと、病院とクリニックと健診センターが同じ画面に並びます。給料も休みの日数も書いてあるのに、肝心の「自分に合うのはどれか」だけは書いてありません。私もそこで手が止まりました。
三つの違いは、規模ではありません。お金・時間・そして次に動けるかどうか。この三つ目だけが求人票に載っていません。
現役の診療放射線技師(10年目)のアルです。私は病院とクリニックの両方で働きました。この記事では、私が実際に経験したクリニックの一日、病院に戻って初めて気づいた、クリニックで手放していたもの、そして職場のタイプを決める前に確かめてほしい5つを話します。求人票に書いてあることは、ここでは繰り返しません。
病院・クリニック・健診センターの違いを、三つの物差しで比べる
先に一つだけ。病院とクリニックで働く技師のうち、およそ8割は病院にいます。クリニックの求人が少なく感じるのは気のせいではなく、母数が5分の1だからです。
三つの物差しで、私が経験した範囲を並べます。あくまで私がいた職場の話で、同じ名前の職場でも中身は変わります。
| 物差し | 病院 | クリニック | 健診センター |
|---|---|---|---|
| お金 | 当直の手当が乗り、上がりやすい | 手当が少なく、上がりにくい | 日勤のみで手当は少なめ |
| 時間 | 終業間際の検査と当直がある | 予約中心で終わりが読める | 1日の件数が読めるが季節の波がある |
| 次に動けるか | 特殊な検査の経験が積める | 経験が偏りやすい | 検査の種類が絞られやすい |
| 雑務 | 掃除や設備の担当者がいる | 鍵開け・掃除・電話が回ってくる | 受付や案内を兼ねることがある |
健診センターの列だけは、私の体験ではありません。理由は後の章で書きます。
並べてみると分かるのは、三つ全部が上の職場は無いということです。どれかを取れば、どれかが下がります。だから「どこがいいか」ではなく、今の自分はどれなら下げてもいいかで考えたほうが早く決まります。
同じ「病院」でも中身はまるで違う
ひとくくりにできないのが難しいところです。大学病院は人数が多いぶん当直の順番が回ってきにくく、手当が付きにくいという話をよく聞きます。民間の総合病院は人が少なくて忙しい代わりに、任される検査の幅が広い。「病院かクリニックか」の前に、「その病院か」を見る必要があります。
私がいたクリニックは、レントゲンだけの職場ではなかった
クリニックと聞いて、レントゲンを1日撮って終わり、という絵を思い浮かべる人は多いと思います。私も入る前はそう思っていました。
実際に扱っていたのはレントゲンとMRI、あとは限られた検査だけ。そして一番件数が多かったのはMRIでした。
技師は数人。忙しいのはMRIだけで、あとの時間は落ち着いていました。予約が中心なので、今日どれくらい働くかが朝の時点で見えます。この「見える」がクリニックの一番の価値だと私は思っています。
MRIは1件あたりに時間がかかるぶん、予約の枠で動く検査です。枠が埋まった時点で、その日の終わりも決まる。病院では当たり前だった「終業まぎわに検査が入ってくる」が、ここではほとんど起きませんでした。
残業は、月をまるごと合計して1時間くらい。週に15分ではありません。月に1時間です。
病院にいた頃は、終業時刻に検査が入ってくるのが普通でした。予約の枠でしか動かない職場に移って、初めて「今日は何時に帰れる」が分かるようになったんです。
裏返すと、覚える範囲もそこで止まります。新しい検査を覚える機会は、病院にいた頃よりはっきり減りました。ここが後になって効いてきます。
それ以来、求人票では施設の名前より先に装置の欄を見るようになりました。MRIがあるクリニックと、レントゲンだけのクリニック。同じ看板でも、そこで覚えられることはまるで違います。
給料はどうだったか。正直に言うと、病院のほうが高かったです。当直の手当が乗るかどうかが大きい。この構造は放射線技師の年収の話で詳しく書いています。
つまりクリニックで私が手に入れたのは時間で、手放したのはお金でした。お金の差は毎月の給料だけでなく、退職金にも出ます。職場の種類ごとの違いは放射線技師の退職金はいくら?転職すると損か、年収差で計算したで整理しました。
時間を買う値段は、自分の給与明細で計算できます
当直手当の行を見て、1回あたりの額に月の回数と12を掛けてください。クリニックに移るというのは、多くの場合その金額が丸ごと無くなるところから始まります。基本給の差よりも、当直手当が消えることのほうが効きます。それが、あなたが時間を買う値段です。
求人票に書いていなかったのは、鍵開けと掃除だった
良いことばかり書くと嘘になります。クリニックには、技師の仕事だと思っていなかった仕事がありました。
- 朝の鍵開け当番が月に2回ほど。1時間早く出て、掃除をしてから開ける
- 予約の時間に来られなくなった患者さんへ、いつなら来られますかと電話をかける
- 昼休憩の途中で、紹介で来た患者さんを午後の診察までに撮る
どれも1つずつは小さい。ただ、求人票にはひとつも書いていませんでした。
こうなる理由は人数です。病院には掃除の担当者がいて、設備を見る人がいて、電話を受ける事務がいます。人が少ない職場ではその役割が消えるのではなく、技師のほうへ寄ってきます。
そして病院に戻ったとき、私が一番ありがたいと感じたのは装置でも給料でもありませんでした。掃除をしてくれる人がいることです。自分の仕事が撮影に戻った、という感覚がありました。
誤解のないように書くと、雑務そのものが嫌だったわけではありません。困ったのは、それが撮影の時間を削ること。そして求人票を見ている段階では、存在すら分からないことです。
人数の少なさは、休みにも効いてきます
技師が数人しかいない職場で1人が休むと、残りの人で回すことになります。急に休みたい日ができたとき、代わりがいるかどうかは働きやすさに直結します。見学のときに人数だけでなく、去年その職場で何人が辞めたかまで聞けると景色が変わります。技師が1人だけの職場で休みがどうなるかは、放射線技師の一人職場はきつい?に書きました。
クリニックは、院長ひとりで空気が決まる
もうひとつ、クリニックにだけある話をしておきます。方針を決めるのが院長ひとりだということです。
私がクリニックを離れたのも、突き詰めれば方針の合う・合わないでした。技師が数人しかいない職場では、合わないと感じたときに逃げ場がありません。病院なら部署も上司も複数いて、間に人が入る余地があります。
代替わりで方針が変わり、人が入れ替わったという声も見かけます。見学のときに院長と話す時間をもらえるかどうかは、それ自体が答えの一部です。断られる職場なら、入ってからも話せません。
クリニックが長くなると、病院に戻りにくくなる
ここが、この記事で一番伝えたいところです。
クリニックに長くいると、病院へ戻りにくくなります。理由ははっきりしていて、造影や血管撮影、手術室といった特殊な検査から離れてしまうからです。
どのくらいで、という目安を私の感覚で言うと3年です。3年を超えたあたりから、病院の求人に応募したときの見られ方が変わってくる印象があります。決まりがあるわけではありませんし、職場にもよります。それでも、迷っている人には数字があったほうがいいと思うので書いておきます。
日々の仕事が回らなくなるわけではありません。困るのは、動きたくなった日です。私が見てきた病院の求人票では、その特殊な検査ができる人を探しているものが目立ちました。数年離れると、応募する側の持ち駒からその経験が抜け落ちるんです。
病院側の事情から考えると分かりやすいかもしれません。募集がかかるのは、多くの場合そこが手薄になったときです。当直や造影を任せられる人が抜けた穴を埋めたいので、すぐ回せる人から声がかかります。育てる前提の枠は、新卒の採用に寄りがちです。
クリニックを選ぶな、という話ではありません。「戻る道が細くなる」ことを知ったうえで選ぶのと、知らずに5年たつのとでは、まったく違うという話です。
逆向きはもっと簡単です。病院からクリニックへは移りやすい。先に病院で特殊な検査を経験しておくと、あとの選択肢が減りません。順番の問題です。他にどんな道があるかは放射線技師からの転職先15選にまとめました。
すでにクリニックが長い人にできること
では手遅れかというと、そうではありません。私が現実的だと思う手は3つあります。
- 今の職場で扱える検査を増やせないかを相談してみる。装置を増やす予定があるなら、その担当に手を挙げる
- 外で経験を足せる働き方を探す。当直や健診の応援は、離れていた検査に触れ直す入り口になる
- 戻る気があるなら、離れている期間が短いうちに動く。年数が延びるほど説明が難しくなる
外で働き方を足すときの注意
当直の応援やアルバイトを考えるなら、先に今の職場の就業規則を確認してください。副業を認めていない職場もあります。順番を逆にすると、経験を足すつもりが立場を悪くします。
健診センターは、日勤だけが同じで中身は正反対
先に正直に書きます。私は健診センターで働いたことがありません。だからここは体験として語れません。公開されている情報と、実際に働く人が書き込んでいる悩みの範囲に限って書きます。
クリニックと健診センターは「日勤だけ」という一点が同じなので、よく一緒に語られます。ただ中身は逆を向いています。
言葉の違いも先に整理しておきましょう。健診は健康かどうかを確かめるもの、検診は特定の病気を探すもの。読みは同じでも、職場で扱う検査の中身は別物です。
- 来る人が違う。クリニックは具合が悪い人、健診は健康な人
- 波の出方が違う。クリニックは日ごと、健診は季節ごと。春と秋が忙しく、冬は仕事量が落ちる
- 検診車で回る職場がある。早朝に出発する日や、企業へ健診を売り込む仕事が入ることもある
検索していると、健診に移ると大きな装置に触る機会が減るのでは、という不安の書き込みをよく見かけます。一方で、マンモグラフィのように一つを深く経験したほうが、引っ越し先でも仕事を見つけやすいという反対の意見もありました。どちらが正しいかは、その人が次にどこへ行きたいかで変わります。
悪い話ばかりではありません。夜間の呼び出しが無く、1日に何件こなすかが読める働き方は、生活を立て直したい人には合います。私が体験していない以上、ここで良し悪しは決めません。
代わりに、確かめるべき点だけ挙げておきます。繁忙期と閑散期で仕事量がどれだけ違うか。閑散期は何をしているか。検診車で回る日が月に何日あるか。この3つが分かれば、季節の波の大きさは見えます。
補足:国の統計で見る、技師の職場の内訳
ここからは根拠の話です。急いでいる人は読み飛ばしてかまいません。
| 働いている場所 | 常勤に換算した人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 病院 | 46,794.6人分 | 80.7% |
| 一般診療所(クリニック) | 11,212.1人分 | 19.3% |
| 合計 | 58,006.7人分 | 100% |
出典は厚生労働省「令和5(2023)年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」表25(2023年10月1日現在)です。合計と割合は、この表の病院と一般診療所の数字から私が計算したもの。この調査は医療施設で働く人が対象なので、メーカーや行政で働く技師は入っていません。
「常勤に換算」とは、頭数ではなくフルタイム何人分の働きかに直した数字のこと。週20時間の人が2人いれば1人分と数えます。だから小数点が付きます。
人数では病院が圧倒的ですが、増え方は逆を向いています。3年前の同じ調査(厚生労働省「令和2(2020)年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」表34(2020年10月1日現在))と比べると、病院は3.6%増、クリニックは7.3%増。増え方はクリニックのほうが倍近く速い。
もうひとつ。大学病院はこの「病院」の中のさらに一部です。同じ調査で医育機関は5,797.5人分、病院全体の1割強にとどまります。「病院に行く」と決めても、その中でまた景色が分かれます。
この比率は探し方にも効きます。病院は数が多いぶん比べる相手が多く、クリニックは数が少ないぶん一つひとつの条件差が大きく見えるもの。同じ「クリニックの求人」でも、置いてある装置が違えば別の仕事です。
健診センターの人数は、国の統計では分かりません
健診センターは、原則として法律の上では病院か診療所のどちらかとして登録されます。だから上の表のどこかに混ざっていて、切り出せません。「健診で働く技師は何人」と言い切っている記事を見かけたら、その数字の出どころを確かめてください。
求人票では分からない5つを、面接で確かめる
ここまでの話を、そのまま質問に変えます。私自身が確かめておけばよかったと思っているものも入っています。
初任給が高く見える職場ほど、ここで差がつきます。月給が同じでも、1年にいくら上がるかが違えば10年後は別の場所。「昇給あり」ではなく、刻みの幅を聞いてください。
私が前の転職で唯一悔やんでいるのがこれです。求人票の数字ではなく、その職場の人が実際に何時間残っているかを聞いてください。
収入に直結します。「いつから」を落とすと、聞いていた時期になっても入れないことがあります。
人数の少ない職場では起こります。撮影以外に何をするのかを、先に一覧にしてもらうのが早いです。私の場合は鍵開けと掃除と電話でした。
人が続いているかどうかは、待遇よりも職場の空気を映します。答えにくそうにされたら、その反応も情報のうちです。誰も辞めていない職場なら、その理由を聞いてみてください。自分では聞きにくいと感じるなら、放射線技師のブラック病院の見分け方で、担当者から確かめる方法を書いています。
面接で言われた話と実際の仕事が違った、というのが後悔の一番多い形です。実例は放射線技師の転職で失敗する人の共通点にまとめました。
面接の前に、今夜できること
気になっている求人を3件だけ開いて、装置の欄だけ書き出してみてください。MRIがあるか、CTがあるか、レントゲンだけか。給料と休日のほかに、比べる軸がもう1本増えます。半年決まらない人の多くは、軸が給料しかありません。
タイプ別に、向いている人
優劣はありません。今の自分が何を優先するかだけです。
病院が向いている人:まだ経験の幅を広げたい人。数年以内に転職する可能性を残しておきたい人。当直を含めて収入を上げたい人。
クリニックが向いている人:生活の時間を取り戻したい人。すでに特殊な検査を経験している人。予定の立つ働き方をしたい人。
健診センターが向いている人:夜間の呼び出しから離れたい人。決まった検査を深めたい人。季節の波を受け入れられる人。
では「もう出ても大丈夫」の線はどこか。私の目安はひととおりのモダリティを触っていることです。一般撮影だけ、CTだけ、で止まっていないこと。そこまで経験していれば、次にどこへ移っても困りません。
それでも決められないときは、今ではなく3年後で考えてみてください。3年後の自分が病院の求人に応募したくなったとき、何が必要になるか。そこから逆算すると、いま選ぶべき順番が見えてきます。
経験を広げるのは先、時間を取り戻すのは後。この順番のほうが、選べる道が減りません。逆にすると、戻りたくなった日に手札が足りなくなります。
よくある質問
- 新卒でクリニックに入るのは不利ですか
-
不利と決まってはいませんが、あとで病院に移りたくなったときに、特殊な検査の経験が足りず苦労することはあります。長く勤めるほどその差は開くので、迷っているなら早いうちに決めたほうが動きやすいです。
- クリニックは本当に残業が少ないのですか
-
私がいた職場は月の合計で1時間ほどでした。予約が中心で、枠が埋まればその日の終わりが決まる働き方だったからです。ただし予約の入れ方と技師の人数で変わります。少ないと言われている職場ほど、実際の時間を面接で確かめてください。
- 給料はどのタイプが高いですか
-
私の経験では病院でした。当直の手当が乗るかどうかが効きます。ただし年収が少し下がっても、時間が空いて生活が回るようになることはあります。額面だけで決めず、何時に帰れるかとセットで見てください。
- 健診センターから病院に戻れますか
-
戻れないわけではありません。ただ扱う検査が絞られるぶん、離れていた期間が長いほど準備が必要になります。戻る可能性を残したいなら、その気持ちを面接の段階で伝えておくと道が作りやすくなります。
まとめ
病院とクリニックの違いは、規模ではなく、お金と時間と「次に動けるか」でした。
- お金は病院が上。当直の手当が乗る
- 時間はクリニックが上。私の職場は残業が月に合計1時間だった
- 次に動けるかは病院が上。特殊な検査から離れると、戻るのに助走が要る
求人票に書いてあるのは一つ目と、せいぜい二つ目までです。三つ目は自分で確かめるしかありません。
私はクリニックで時間を取り戻し、病院で経験と給料を取り戻しました。どちらも失敗ではありません。ただ、順番を知っていればもっと楽に選べたと思っています。
そして、確かめる相手は職場だけではありません。今の自分がどれを優先しているのかを先に決めておくと、求人の見え方が変わります。動くかどうかを迷っている段階なら、放射線技師の転職サイトの比べ方から見てみてください。









コメント