転職を考え始めると、引っかかるのが退職金です。「今辞めたらもったいない?」「クリニックには退職金が無い?」。規程を読んだこともないまま、損な気がして足が止まっていませんか。
国家公務員の表で基本給28万円の場合、自分から辞めたときの退職金は勤続5年で約70万円、10年で約141万円です。勤続7年くらいまでなら、退職金の差より、転職で変わる年収の差のほうが大きくなりやすい計算です。退職金が大きく増える年の手前にいる人や、勤続が長い人は話が逆になります。
現役の診療放射線技師(10年目)のアルです。私は退職金をまったく気にせずに職場を選び、受け取った退職金は30万円以下でした。この記事でわかることは、①職場ごとの退職金のしくみ ②待つか動くかを年収差で比べる計算 ③辞める前に確認したい4つ、の3つです。
この記事の金額は、しくみを説明するための計算例です。実際の退職金は、あなたの職場の規程で決まります。税金と確定拠出年金の説明は、国税庁・厚生労働省の情報(2026年9月時点で確認)をもとにしています。
放射線技師の退職金の相場は、職場の種類で決まる
「放射線技師の退職金はいくら?」には、1つの数字では答えられません。同じ放射線技師でも、勤め先が公立病院か、民間の病院か、クリニックかで、退職金を決めるルールそのものが違うからです。金額の目安は次の章で出すので、まずはルールの違いを押さえてください。
| 職場 | 退職金を決めるもの | 気をつけたい点 |
|---|---|---|
| 公立病院 | 自治体の条例で決まる「退職手当」 | 自分から辞めると率が下がる。勤続が長いほど大きく増える |
| 民間病院(医療法人など) | 病院ごとの退職金規程 | 「勤続○年以上」の条件も、計算のしかたも病院しだい |
| クリニック | 中退共などの積み立て、または制度なし | 中退共は、掛金を納めた月数が11か月以下だと0円 |
| 医療機器メーカーなど企業 | 会社の退職金・企業年金・確定拠出年金 | 確定拠出年金がある会社なら、辞めるときに移す手続きが要る |
中退共は「中小企業退職金共済」の略で、小さな職場が退職金のために入る、国がつくった積み立て制度です。職場が毎月お金を積み立て、辞めるときにそこから支払われます。私が以前勤めたクリニックには、そもそも退職金の制度がありませんでした。
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、退職金や企業年金の制度がある企業は74.9%でした。従業員1,000人以上では90.1%、30〜99人では70.1%で、職場が小さいほど制度が無い割合が増えます。医療・福祉は75.5%です。
この調査は、常用労働者30人以上の民間の法人が対象です。数人で回しているクリニックや公立病院は、この数字に入っていません。
給料そのものが職場でどう違うかは、放射線技師の年収は低い?現役10年目が給料のリアルと上げ方を話すで比べています。メーカーへ移る場合の働き方は、放射線技師から医療機器メーカーへ転職するには|現役が見た現実にまとめました。
何年働けば出る?自己都合と勤続年数で退職金はこう変わる
退職金の計算でよく使われるのが、「基本給 × 勤続年数に応じた率」という形です。押さえたいのは2つ。自分から辞めると率が下がることと、勤続年数によって率が一段上がる年があることです。
自分から辞める「自己都合退職」は、定年や職場の都合で辞めるときより率が低く決められています。国家公務員の表で比べると、次のとおりです。
| 勤続年数 | 自分から辞めた場合 | 基本給28万円なら | 定年などの場合 |
|---|---|---|---|
| 3年 | 基本給の約1.5か月分 | 約42万円 | 約2.5か月分 |
| 5年 | 約2.5か月分 | 約70万円 | 約4.2か月分 |
| 10年 | 約5.0か月分 | 約141万円 | 約8.4か月分 |
| 20年 | 約19.7か月分 | 約551万円 | 約24.6か月分 |
出典:内閣人事局「国家公務員退職手当支給率早見表(平成30年1月1日以降の退職)」。ここでの基本給は、給料(俸給)に扶養手当や地域手当などを足した月額です。公立病院の率は自治体の条例で決まるので、この表と同じとは限りません。
自己都合の率は、10年から20年のあいだで約4倍になります。同じ表では勤続11年・16年・20年の年に、自己都合の率がぐっと上がります。たとえば10年で辞めると約5.0か月分ですが、11年なら約7.4か月分です。
民間病院では、支給の条件として「勤続○年以上」と最低の年数を決めている規程があります。私が3年目で辞めた最初の職場では、退職金は出ませんでした。退職金やボーナスを踏まえた辞める時期の考え方は、放射線技師の転職時期はいつがいい?にまとめています。
転職してきた私の退職金は、30万円以下でした
ここからは私自身の話です。職場を変えてきた中で、退職金を受け取ったのは1回だけ。額は30万円以下でした。
求人票には退職金の条件まで書いてあったのに、辞めると決めるときに退職金のことはまったく考えていませんでした。「将来、どちらの職場のほうが得になるか」で選んでいたからです。
退職金は、もともと給料を後払いでもらうお金です。毎月の給料や昇給の伸びが違えば、その差は年を追うごとに積み上がります。
クリニックを離れたのは、職場の方針が合わないというお金以外の理由でした。そのときも、退職金は判断に入っていません。
以前の職場と比べると、いまは年収が上がっています。退職金は当てにしておらず、老後のお金はNISAやiDeCoなどを使って自分でも積み立てています。
退職金のことは、辞めるときに一度も頭に浮かびませんでした。ただ、それは勤続が短いうちに動いたからでもあるんです。
10年、15年と勤めてきた人は、同じ考え方でも答えが変わります。次の章で、実際に計算してみます。
転職すると損?退職金の差と年収の差を計算してみた
「あと数年待てば退職金が増える」と「転職すれば年収が上がる」。どちらを取るかは、次の2つを比べると目安がつきます。
待つと増える退職金 と、待っている間に逃す年収アップ(年収差 × 待つ年数) を比べる
退職金のほうが大きければ、区切りの年まで待つほうが得。年収アップのほうが大きければ、いま動くほうが得です。
計算の前提は、すべて架空の数字です。国家公務員の表の自己都合の率を使い、基本給は月28万円のまま変わらないとします。転職すると年収が30万円(月2.5万円)上がるとします。昇給や、転職先でたまっていく退職金は入れていない簡単な計算です。
例1:勤続7年の人が、いま辞めるか10年まで待つか
| 辞める時期 | 退職金(自己都合) |
|---|---|
| 勤続7年 | 約98万円(約3.5か月分) |
| 勤続10年 | 約141万円(約5.0か月分) |
| 待つと増える額 | 約42万円 |
3年待つと、逃す年収アップは30万円 × 3年 = 90万円。増える退職金の約42万円より大きいので、勤続7年なら、いま動くほうが得という計算です。
11年まで待つと、率が上がって退職金は約208万円になります。7年との差は約110万円、逃す年収アップは4年分で120万円。お金の上では、ほぼ引き分けです。
一方、すでに勤続10年の人が11年まで待つと、退職金は約68万円増えます。逃す年収アップは30万円なので、この場合は1年待つほうが得です。
例2:勤続17年の人が、いま辞めるか20年まで待つか
| 辞める時期 | 退職金(自己都合) |
|---|---|
| 勤続17年 | 約394万円(約14.1か月分) |
| 勤続20年 | 約551万円(約19.7か月分) |
| 待つと増える額 | 約156万円 |
逃す年収アップは3年分で90万円。増える退職金の約156万円のほうが大きく、この条件なら20年まで待つほうが得です。勤続が長くなるほど、1年あたりに増える退職金が大きくなるからです。
当直から抜けたくて、年収が少し下がっても動きたい人もいると思います。その場合は、お金同士では比べられません。
例1なら、10年まで待って増える退職金は約42万円。3年で割ると、月にして約1万2千円です。「月1万2千円のために、あと3年当直を続けるか」と置き換えると、自分の答えが出しやすくなります。
この計算、「年収がいくら上がるか」は求人を見ないと決まらないんです。そこが空欄のままだと、比べようがありません。
退職金を気にせず転職していい人・慎重になった方がいい人
ここまでの計算を、チェックリストにまとめます。当てはまる数が多いほうを、判断の出発点にしてください。
退職金を気にせず転職していい人
- 勤続が7年くらいまでで、率が一段上がる年まで2年以上ある
- 転職で、年収がはっきり上がる見込みがある(例:年30万円以上)
- 当直や人間関係など、お金以外にも辞めたい理由がある
実際にいくら上がるかを確かめる入口は、放射線技師の転職サイトはどれがいい?現役技師が2社に絞って比較です。
慎重になった方がいい人
- 勤続が15年を超えている
- 規程で率が上がる区切りの年(国家公務員の表なら11年・16年・20年)の、1〜2年手前にいる
- 転職しても、年収がほとんど変わらない
- 公立病院に長く勤めていて、定年まで勤める道も選べる
勤続が長い人ほど、辞めてから気づく損があります。先に放射線技師の転職で失敗する人の共通点5つ|現役10年目が見てきた「後悔」のパターンも読んでおいてください。
辞める前に確認したい退職金の4つ(規程・率・中退共・確定拠出年金)
退職金のルールは、「就業規則」か「退職金規程」に書いてあります。職場の共有フォルダや院内のパソコンで見られるところもあれば、入職時にもらった書類に入っていることもあります。見るだけなら、辞める話を誰かにする必要はありません。
私は退職金を頼りにしていなかったので、今の職場の規程も見ていません。ただ、辞めるかどうか迷っているなら、先に見ておいたほうが早く決められます。
「勤続○年以上」の条件があるか、自分がいつそこに届くかを確認します。
規程の表の「自己都合」の欄で、今の勤続年数の率を探しましょう。掛けるのは給与明細の「基本給」で、当直手当や残業代は入れません。規程に別の決め方が書いてあれば、そちらが優先です。
中退共なら、掛金を納めた月数を確認します。11か月以下なら0円、2年未満だと積み立てた額より少なく戻ります。
給与明細や入職時の書類に「確定拠出年金」「DC」とあれば対象です。無ければ飛ばしてかまいません。対象なら、辞めてから6か月以内に、iDeCoや転職先の制度などへ移す手続きが必要です。放っておくと国民年金基金連合会という団体へ自動で移され、運用されないまま手数料がかかります。
税金は、退職金が次の枠に収まるなら気にしなくて大丈夫です。勤続20年以下なら、1年あたり40万円(最低80万円)まで税金がかからない枠があります。
受け取るときは、「退職所得の受給に関する申告書」を職場に出しておきましょう。原則として確定申告もいりません(国税庁、2026年4月1日現在の法令等)。
求人票の「退職金あり」は、ここまで読む
求人票で退職金の欄を見るときは、「あり・なし」だけで終わらせないでください。確かめたいのは次の3つです。
- 何年目から支給の対象になるか
- 中退共か、病院独自の規程か
- 自分から辞めた場合の扱い(自己都合だと率が下がるか)
欄に書いていなければ、面接で聞いてみてください。「退職金制度は何年目から対象になりますか」の一言で足ります。
有無ではなく年数で聞くと、制度が無い場合もその場でわかります。この聞き方は、放射線技師からの転職先15選|現役10年目が「免許が要る仕事・要らない仕事」で整理したの面接の章でも紹介しました。
私自身は、面接でも転職サービスの担当者とのやり取りでも、退職金の話をしたことがありません。今思えば、自分から聞きにくい条件ほど、担当者を通して確認してもらう手もありました。そのときも、聞くことは同じ「何年目から対象か」です。
まとめ
- 放射線技師の退職金は、公立病院・民間病院・クリニック・企業で、決めるルールが違う
- 自分から辞めると率が下がり、勤続が長いほど1年あたりの増え方が大きくなる
- 迷ったら、「待つと増える退職金」と「待つ間に逃す年収アップ」を比べる
- 計算例では、勤続7年なら転職が有利、勤続17年なら20年まで残るのが有利
- 辞める前に、規程・自己都合の率・中退共・確定拠出年金の4つを確認する
私は勤続が短いうちに動き、退職金は30万円以下でしたが、そのあと年収は上がりました。勤続が長い人に、同じ動き方をそのまま勧めるつもりはありません。
比べるときに必要な「年収がいくら上がるか」は、求人を眺めるだけでも見えてきます。動くかどうかは、その数字を見てから決めて構いません。まずは放射線技師の転職サイトはどれがいい?現役技師が2社に絞って比較から、相場を確かめてみてください。
よくある質問
- クリニックには退職金がないのですか?
-
職場によります。中退共などで退職金を用意しているクリニックもあれば、制度が無いところもあります。私が勤めたクリニックには制度がありませんでした。求人票か面接で「何年目から対象か」を確認してください。退職金以外の違いは、放射線技師は病院とクリニックどっちがいい?両方で働いた現役10年目が違いを話すで整理しています。
- 公立病院を辞めるのはもったいないですか?
-
勤続年数しだいです。公立病院の退職手当は勤続が長いほど大きく増えるため、15年、20年と勤めた人ほど辞めたときの差は大きくなります。勤続が短く、転職で年収が大きく上がるなら、退職金の差より年収の差のほうが大きくなることもあります。
- 退職金に税金はかかりますか?
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勤続20年以下なら、1年あたり40万円(最低80万円)までは税金がかかりません。「退職所得の受給に関する申告書」を職場に出せば、原則として確定申告も不要です(国税庁、2026年4月1日現在の法令等)。
- 確定拠出年金は、転職したらどうなりますか?
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辞めてから6か月以内に、iDeCoや転職先の制度などへ移す手続きが必要です。手続きをしないと国民年金基金連合会へ自動で移され、運用されずに手数料がかかります(厚生労働省)。



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